こだわったのは、そのなめらかな舌触り。加糖タイプ、粒入りタイプも。
渋谷区富ヶ谷のちいさな路地に佇む、ブーランジュリ「365日」。弊社のピーナッツをパンの材料として使ってくださるアトリエのひとつです。新進気鋭のパン職人、杉窪章匡氏がいっさいの舵を取るこのお店は、お話をうかがいに訪れた日も、次から次へ、店舗の扉をくぐるお客さまの足が絶えません。
オープンから1年半を目の前にして多くのメディアを賑わすのは、パン業界の常識を覆しながら進化を続ける杉窪オーナーシェフの徹底した素材へのこだわり。それに、語らずとも滲み出る、お客様、生産者の方々、スタッフなど関わる人々を幸せにしたいと願う強い気持ちでしょうか。
木強漢のなかに見え隠れするのは、人に対する愛情。
「ぼくが食を通して目指しているのは、世界平和です!」
ユーモア溢れる杉窪シェフですが、その言葉も冗談ではなさそうです。
ちなみに、ブーランジュリ「365日」のコンセプトを表現するキーワードは、
「食 + 食 – 食 × 食 ÷ 食」。
食材と食材を合わせる(+)ことで新しい発見がある。そして、そこから引き算する(-)ことによって食材の旨味を引き出す。さらに、そこには相乗効果(×)が生まれ、最後はそれを大切な人と分かち合う。つまり、毎日の食のひとつひとつの積み重ねが人の心とからだをつくり、365日を充実させる
という意味だそう。世界平和のフレーズも納得です。
杉窪シェフが、日々食べるものや素材の大切さを肌で感じるようになったきっかけは、パリの修行時代。2000年から2002年まで、当時ガストロノミーの世界にいた彼の修業先のレストランに毎日届けられていた、フランス各地のそのときどきに穫れる旬の食材を扱ううちに、食材そのもの、さらにはそれを育てていらっしゃる生産者の方々やその栽培方法にまで興味を持つようになったといいます。
「ちゃんと美味しいものをつくるには、ちゃんとしたものを選ぶこと。つまり、ちゃんとした食材をつくってくれる生産者の方々の販売先になって、例えば全量を買い上げて利益を出すこと。そうすることで、生産者の方々は安心してクオリティの高い食材をつくることに集中できます。そして、私たちはお客様にそれを提供し続けられ、お客様はちゃんとした食事を摂れる。そんな循環が世の中のあちこちで生まれたら、世界も平和になるかもしれないでしょ?」
オーナーシェフという日々の忙しい仕事の合間を縫って日本全国を東奔西走し、理想の食材を探し続ける杉窪シェフに、セガワ三代目である弊社の加瀬常務がアプローチしたのが、ピーナッツを原材料として扱っていただくきっかけだったとか。「ぼくは素材をみずから探す方で、基本的には売り込みなどお会いしないスタンスなんですよ。でも、加瀬さんはわりとしつこくて(笑)」という杉窪シェフの言葉に、その場でどっと笑いが弾けます。「そうでしたっけ(笑)? というのも、私のスタンスが、弊社にかかわるスタッフはもちろんのこと、生産者のみなさん、それを食すお客様、ひいてはピーナッツ業界全体をもっといい方向に持っていきたいという使命を持って取り組んでいて、そのためにもどうしても杉窪シェフに使って欲しかったので、易々とは諦めませんでしたよ」と加瀬も応戦します。
「使わせていただこうと思った決め手は、やっぱり口に含んだとき、純粋に「美味しいな」って思えたからです。ちゃんとつくってるんだろうな、って。外国産の美味しいのもいいのですが、やっぱりできるだけ国産のものを使って、いいものをつくっていただける農家さんがたくさん増えていくといいですよね。戦後の食糧難の頃は、化学肥料を使ってバンバン食糧をつくらなければいけない時代にあったかもしれません。でも、いまはもうそういう時代じゃないと思うんです。お客様のニーズ、つまり時代の空気感にしっかりと自分たちの仕事を合わせていく。イコール、その場の空気感に常に微調整を加え続けて進化させる。それが、食の職人であり、ここのオーナーシェフであるぼくの役割ですね。「美味しいパンを提供すること」を通じて、お客様、生産者の方々、スタッフ……いろんな人が幸せになる。そういう仕事をしていきたいと思っています」
ブーランジュリ「365日」オーナーシェフ
杉窪章匡
Akimasa Sugikubo
1972年生まれ。両祖父が輪島塗職人という職人家系の血統。自身もパティシエとして職人人生を歩み、24歳でシェフパティシェに就任。2000年、渡仏。2つ星「ジャマン」、1つ星「ペトロシアン」を経て、2002年に帰国。国内の数件のパティスリーやブーランジュリなどでシェフを務める。2013年に独立を果たし、同年9月に名古屋に「テーラ・テール」を、10月に福岡に「ブルージャム」を、12月に向ケ丘遊園に「セテュヌボンニデー」を、それぞれ立て続けにプロデュース・オープン。そして、同年同じく12月には、自身がオーナーシェフを務める「365日」をオープンさせた。2015年は、コーヒーのロースト、それに食のアトリエをそれぞれ手がけるべく準備を進めている。