こだわったのは、そのなめらかな舌触り。加糖タイプ、粒入りタイプも。
トレンドからカルチャーへ。
コーヒーのある日常を提案し続けているブルーボトルコーヒーが、日本に来て以来ずっと大切にしているもののひとつが、季節の移り変わりとともに添えられるコーヒーのお供の存在です。今年9~10月は、ちょうど収穫~加工期に当たる落花生を一部店舗でフィーチャーし、Bocchiのピーナッツペーストを使った「ピーナッツバターキューブ」をゲストのみなさんに楽しんでいただきました。
キッチンスペシャリスト高野さんをはじめ、ペイストリーチームが試行錯誤を重ねたピーナッツバターキューブの誕生。そこにはどんな経緯があったのでしょうか。
今回はキッチンプランニングマネージャーの芳賀さんと、江東区北砂にある自社キッチンにて開発を行なうキッチンスペシャリストの高野さんに密着取材しました。
Bocchi(以下、b)
ピーナッツバターキューブって、どんな風に商品化されたのですか?
キッチンプランニングマネージャー 芳賀さん(以下、h)
実は数年前に一度販売したことがありました。本国から来たレシピをもとに開発、販売しました。人気のクッキーだったので「もう一回やりたいよね」という話になって復活させたという経緯があります。
前回のものも良かったのですが、あらためて試作してみたところ、ちょっと脂分を多く感じたり、甘みが強いなど、日本人の志向とコーヒーとのペアリングを考えたときに、「もうひと捻りいるよね」という話になりました。
まず肝心な素材の話になったとき、「どのピーナッツバターがいいんだろう?」という議論を重ねていくなかで行き着いたのがBocchiのピーナッツペーストでした。落花生そのままの味や香りがして美味しいからぜひ使いたいという話になりましたね。
次に、「サイズを見直したほうがいいんじゃないか」とか、「形が重要なんじゃないか?」っていう議論。
そもそもは円形のクッキー。Bocchiのピーナッツペーストを使ったときに、これまでのいわゆる丸い“アメリカンクッキー”みたいなものにすると風味がしなくなってしまいました……。食感をさっくりさせようとやってみたら焼け過ぎちゃって、卵の焼き切った味しかしないとか、ピーナッツの焦げた味になってしまうとか。
そんな試行錯誤から、「丸じゃないんじゃない?」と、この原型ができました。本国の食の担当や、弊社の代表なども参加する定期的な試食会のなかで、価格的に手に取りやすく、アイキャッチも良く、かつコーヒーに合うサイズ感を探っていったとき、「ショートブレッドの半分のサイズにしよう」という話にまとまり、3cm四方のかわいいキューブができあがりました。
b
わお、すごいですね!
そこまで至るのにキッチンスタッフさんたちのあいだでも、いろいろつくり比べ、食べ比べたんですか?
h
最初はキッチンのなかで試行錯誤しますが、後半は製造のラインに入っていないメンバーも加わって、「ゲスト目線でどうなのか?」という視点も加えて結論づけます。
キッチンスペシャリスト 高野さん(以下、t)
キッチンの仲間と「これでいこう」という話になっても、(芳賀)悠有里さんにプレゼンすると、たまに予想していない答えが返ってきたりして……。こちらの見当違いに気づく瞬間もあります。
h
お互いそういうことは多々あります。どっちが正解でも、また不正解でもないのですが。ただひとつ言えること。それは、最後に食すのはゲストなので、ゲストの方々がブルーボトルコーヒーの飲み物とスイーツをペアリングで食べたとき、どういう体験がいちばん望ましいのか? っていうところに向かうよう、必ず考えていくんです。
b
なるほど~。お客さん目線とキッチン目線……われわれBocchiも商品開発をする際にいつもぶつかる葛藤です。
h
私の意見も単なる一意見です。
私が所属しているチームは、ブランドエクスペリエンスというブルーボトルコーヒーに関わる体験すべてをつくっていくという部署です。スイーツひとつ取っても、そこにいるメンバーが試食しています。そして弊社代表や、アジア地域を統括している役員、彼らにも食べてもらう。
基本的には「つくりたいものをつくる」というのがスタートにあります。「あれやりたい、これやりたい!」という動機があって、それをどうやったらお客さんに楽しく届くかを揉んでいく。「こういう形ならできるかも!」などのアドバイスをして、キッチンに戻してつくってもらっています。試行錯誤のなかで最初目指していたものから食感も変えて、形も変えて商品としてできあがることは多々あります。
b
いろいろなピーナッツバターで試作されたなかで、Bocchiのピーナッツペーストを選んでいただけたのは本当に嬉しいです……。
t
米国産や千葉県産などあらゆるピーナッツバターやピーナッツペーストで試作してみて、スタッフのみんなにブランド名などを伏せて食べてもらったりしました。本当にいろいろなアプローチを試みたのですが、みんなダントツで「これだよね」と、見事なまでにBocchiさんのピーナッツペーストを使ったものをチョイスしましたね。
h
いままで味わったことのない食感が生まれました。
どの店舗でもコーヒーが美味しいというのと同じようにスイーツも美味しくないといけないので、そこに到達するには何をすれば良いのか……? 気づいたら半年の開発期間を経ていましたね。
b
すごく嬉しいです。
僕らは落花生と向き合うことを畑からやっているんですね。で、落花生そのものを生み出してくれるのはタネと畑なんですが、そのお世話と、そこからどうやってみなさんにお届けするかを担っています。
みなさんのお話を聞くごとに、なお一層僕ららしさを提案できるようにしたいなと思いました。ぜひフィードバックがあれば! 何でも欲しいので。
b
今回のピーナッツバターキューブは、どんなコーヒーと相性がいいですか?
h
深煎りのドリップコーヒーが合うんじゃないかな~。
ブレンドだといろんな産地の豆の個性が複雑に混ざり合っていますが、その中で脂分を強めに感じるブレンドもあります。それがローストされたピーナッツの味わいとマッチしてすごく合うんですよね。お互いが合わさって、すっきりまとまってきますね。あと、お砂糖を上にパラパラさせてあるので、すごく甘みを感じる。それを深煎りのドリップコーヒーと合わせることで、アフターがすごくきれいに終わる。コーヒには余韻の楽しみ方もあるので、ペアリングが良いと飲んで食べてを繰り返しても飽きがきませんね。
他のパティスリーと違うのは、全部の商品を少し優しめの味わいにしているんですよ。重いクリームを使わないなど。パウンドケーキもすごい軽かったりします。コーヒーがあって初めて完成するという落とし所を目指して、一歩引いた、ちょっと控えめな優しさを感じるラインを意識して欲しいということは、よくキッチンに言っています。
b
主役になっちゃいけない?
h
でも、いないとダメ!っていう存在(笑)。すべての商品にそういったストーリーがあって生まれてきています。スイーツに関していえば、いまはほぼ日本のオリジナルで、逆にUSに送るレシシピが増えた気がします。パウンドケーキもそうですし、このピーナッツバターキューブも……!
b
すごい!
h
これから世に出るホリデー用のチョコレートケーキのレシピももうUSに送ってあります。ドリンクについても、フィズのシロップなども全部ここ東京のキッチンでつくっていて、日本独自のレシピや、USレシピのアレンジなどもあります。
日本のつくり手さんは仕事が丁寧なので、アメリカのチームもすごい信頼してくれている。だから「日本から入れたい」って言われるものも多いですね。
ハンドドリップコーヒーを淹れるドリッパーもその1つで、日本の会社で製造しています。企画・開発はアメリカで、工学的なアプローチも考慮してつくりました。製造は日本の有田焼。誤差のない均一性や、陶器ならではの熱伝導や土の状態もすごく良いといいます。
b
僕らはもともと落花生屋なので、本当にいちばん美味しいところを引き出す方法は心得ていて、それっていうのは確実に僕らにしかできないことです。だから、本当に美味しいピーナッツペーストを考えたときには、志向は僕ら寄りになってくると思いたいですね。
では、ピーナッツバターキューブ。実際にスタッフやお客さんのあいだの反応はどうでしたか?
h
月に一度、各店長を集めてのミーティングがあるのですが、そこに持っていったときの反応がすごく良かったですね。「コーヒー、いま飲みたいです~!」とか、「こんな食感のものってなかったですね~」など。ウチで働いてるメンバーたちは食べた感想を言ってくれることも多く、店舗からキッチンへ感想をまとめたFAXを送ってくれたりもします。
しかも、Bocchiさんのを使っているので、どなたのものを使っているのかがゲストにもお伝えしやすい。商品に生産者さんが見えていると、お店サイドからいつも良いフィードバックがもらえます。「千葉産なんです」など、ちょっとしたキーワードですが、そのひと言があることで、ゲストのみなさんにちょっとでも引っかかることがあれば購入してくださいます。また「おみやげで」って何個も買ってくださったこともありましたね。
b
僕は新宿のお店でしか購入経験がないんですが、売り場の女性が「オフの日には母とブルーボトルコーヒーにきて、コーヒーとピーナッツバターキューブを買うんです」っておっしゃってて。それにすごくびっくりしました。
h
キッチンのメンバーたちもカフェに行ったりして、どういう風に売れているとか、実際現場で困ってることはないかと聞いたりもしてくれる。みずから外に出ていっていることは素晴らしいです。ブルーボトルコーヒーとしても、コーヒーを含め、「素材を大切にしています」というのはいちばん伝えたいところです。いま200名くらいのメンバーが在籍しているのですが、私としても100%は無理かもしれませんが、何かしら引っかかる言葉をみんなに残したいんですよね。
b
売り場の意見がいちばん大事だったりしますからね。
h
基本的にノンストップなので、毎年違う悩みを抱えて過ごしています(笑)。例えば、パッケージの商品が欲しいという店舗もありますが、全部キッチンでパッケージングっていうのもリソース的に無理だったり、Bocchiさんのようなパートナーさんの素材を使うとき、パートナーさんとかぶらないものをつくらなければという壁もある。ですので、そこをどうしていこうかという話をしたり、いろんな方向を探りながら、いろんなパターンでゲストに楽しんでもらえるよう進めていけるといいなと思っています。
t
僕らも焼き菓子の分野はこれから真剣に立ち上げなきゃいけない部分で、これからやってく段階です。なので、制約的なものも何もなく、一からがベースです。だから、もし取りかかっていただけるなら、ご相談しやすい立場ではあるのかなと。そう思っています!
h
ぜひお願いしたいです!
b
もし次またピーナッツを使ったものを提供するとするなら、どんなものをイメージしていますか?
h
何かな~??
キャラメルっぽいものとか、ヌガーとか? リニューアルした清澄白河フラッグシップカフェではデザートもお出ししているので、パフェみたいなものも……。一方、青山カフェだとトーストのメニューも出しているので、以前にやっていたピーナッツバタートーストとか? アメリカの王道を日本らしく創作することはできるかな。
「こういうの食べたいな~」とか、「あそこのあれ、可愛かったよね~」とか、日常からのインプットがあって、「つくりたい!」ってなることが多いです(笑)。
あとはホットサンドなど、しょっぱい路線はやりたいですね。チーズとは合うと思うんですよね。
b
僕らは甘いものしかイメージが湧かなかった……
h
食事系にもアリですよね! お魚とかにも合いそうだし。ピーナッツを含めていろんなナッツ類を砕いて、バターとかお砂糖とかと合わせて、それをお魚の上に乗せてこんがり炙り焼くとか。少しピーナッツの香ばしい味がする白身魚のお料理など。私、フレンチ出身なんですよ。
b
へえ~!
h
ここに来る前にバリバリのキュイジーヌの時代がありまして(笑)。
朝とか、お昼のちょっとしたブランチじゃないですけど、そういった時間にいつもコーヒーがあったら嬉しいじゃないですか。スイーツはもとより、やっぱりカフェで食べてもらうお食事、そういったものが必要になってきているなと思いますね。
b
コーヒー屋さんから提案の食べるメニュー、ですか!
h
青山カフェにはそのようなメニューもあります。加えて、銀座カフェには朝いつでもクイックに食べられるようなメニューもあります。さらに、清澄白河フラッグシップカフェではデザートで季節のフルーツが食べられたり、青山カフェは食事のメニューでシーズンの野菜が味わえたりします。偏らず、どちらも大切にしていかなければと考えています。
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千葉ローカルで、わたしたちと同じアンテナを持ったファーマーがいるんですよ。すっごいおもしろい人がいるんで紹介しますね。
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お野菜もフルーツも、やっぱりもっといろいろアンテナを張らなきゃいけないなと思っています。千葉なら頻繁に行くこともできるし、お会いして話もできる。そんな農家さんも今後ご紹介いただけると嬉しいです。実はあやちゃんも私も千葉出身なんで。
b
そうなんだ!
落花生って、千葉県が名産なのはみんなご存知かと思うのですが、その発祥って九十九里浜の僕らが住む旭市なんですよ。
浜沿いのピーナッツってやや塩害を受けるわけですね。北海道で有機栽培をしている同級生の農家さんが遊びにきてくれて、やっぱり海沿いの野菜のほうが美味しいっていうんです。キビしい環境で育っているわけなんですね、潮風で。そうすると実の数は少なくなるのですが、味は濃厚になるのだそう。それは野菜の種類を問わず絶対に一緒だと思うっていう話を聞いて。それで僕らは自信を持てるようになりましたね。
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最後に僕たちにリクエストってありますか? 商品のことじゃなくても、なんでもお聞かせいただけたらと思っています。
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美味しいもの、安全なものをしっかり選んでいかないとけないと思うので、近隣の農家さんとの繋がりに、ぜひまぜていただけたら。
ブルーボトルコーヒーもしっかりそいういうものを選び、農家さんとのサステナブルな関係を築いていきたいので、ぜひ遊びに行きたいです。
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では、連れ廻しますね! 手づくりの塩屋さんとか。僕らのピーナッツペーストや、ゆで落花生のお塩もそのかたのじゃないと美味しくないんです。“九十九里沿岸ならではな産地巡り”みたいなもの、すごくおもしろいと思います!
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ジャンルを問わずいろんなところを見に行ったり、もっともっとインスピレーションをもらって、一緒に取り組むことができる可能性をいっぱい探って、良いものは世に出していってどんどん良いカルチャーを生んでいきたいと思っていますので、そういった繋がりがこれをきっかけにできたら良いなって思っています。
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そうしたらまずは僕らの来年春の種まき参加は決定ですね。4月なんですけど、畑の脇の空き地でちょっとしたイベントをやります。堀りとりは夏で、海でスイカ割りとかやったりとか。結構エンターテインメントなメニューもあったりします(笑)。そういった形も含めて、僕らが住む旭のローカルサイドを満喫してもらえるようなラインナップをご用意しますので。
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楽しみにしています。
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今回はありがとうございました!